繊維素材と支点の科学

 

クライミングロープ 破断強度(日本消費生活用製品安全法)

 

シングルロープ        15kN (80kg/係数1.8) ※ ロープ1本で計測

ハーフロープ・ツインロープ  10kN (55kg/係数1.8) ※ ロープ1本で計測

 

 

伸び率(EN892)

 

シングルロープ 静荷重/10% 動荷重/40% ※ ロープ1本で計測

ハーフロープ  静荷重/12% 動荷重/40% ※ ロープ1本で計測

ツインロープ  静荷重/10% 動荷重/40% ※ ロープ2本で計測

 

 

衝撃荷重(EN892)  

 

シングルロープ 12kN ※ ロープ1本で計測

ハーフロープ   8kN ※ ロープ1本で計測

ツインロープ  12kN ※ ロープ2本で計測

 

 

耐墜落回数(EN892)

 

シングルロープ・ハーフロープ  5回 ※ ロープ1本で計測

ツインロープ         12回 ※ ロープ2本で計測

 

 

スリング強度

 

ナイロンソウンスリング(マムート)

 

エイトノット      13kN

クローブヒッチ    16.5kN

ガースヒッチ     12kN

オーバーハンドノット 15kN

 

ダイニーマソウンスリング(マムート)

 

エイトノット      11kN

クローブヒッチ    13kN

ガースヒッチ     10kN

オーバーハンドノット 11kN

 

 

7mmアクセサリーコードロープスリング(エーデルリッド)

 

ダブルフィッシャーマンズベンド 20kN ※ 一般値として0.7で計算

ダブルオーバーハンドノット   15kN ※ 一般値として0.6で計算

 

 

ケブラーロープスリング(ベアール)

 

ダブルフィッシャーマンズベンド 20kN

ダブルオーバーハンドノット   7.2kN ※ 一般値として0.2で計算

 

 

支点強度

 

物理計算値      2倍 (カラビナ抵抗が無いと考えた場合)

カラビナ抵抗換算値 1.7倍 (ビレイヤーにかかるエネルギーは0.7)

 

 

分散率  

 

マスター角60°  アンカー荷重58%

マスター角90°  アンカー荷重71%

マスター角120°  アンカー荷重100%

 

 

 

 

 

クライミングロープは、墜落距離ではなく落下係数で発生する最大衝撃荷重が変化します。落下係数とは、出ているロープの長さに対する墜落した距離を言います。つまり、僅か 1m の墜落でも、100m もの墜落でも、落下係数が同じなら(例えば1mのロープでバンジージャンプしても、100mのロープでバンジージャンプしても)、発生する最大衝撃荷重は同じになります。
ロープの伸びによる衝撃吸収が発生するので、この様な現象が発生します。

 

シングルロープの最大衝撃値が12kN、ハーフロープの最大衝撃値が8kNなので、中間支点にはその1.7倍であるシングルロープ・ツインロープ 20.4kN / ハーフロープ 13.6kN 求められます。これは落下係数1.8もの大きな墜落で発生する衝撃なので、基本的にはマルチピッチにおける0ピンにのみ発生するリスクであり、その後1ピン目、2ピン目と進むにつれて落下係数は小さくなり、墜落衝撃も小さくなっていきます。

 

これによって、求められる支点強度を考えなくてはなりません。

例えば ガースヒッチで繋いだ場合、全ての素材において必要強度となる15.3kNを下回る計算となるので、0~2ピン目などに使うのは避けた方が無難でしょう。仕方なくガースヒッチを行う場合には、長いスリングを2重にする、2本のスリングから均等した荷重になるように支点を作るなどの強度対策を行う必要があります。

この様な場合には、ツーバイトやラウンドターンにすると良いでしょう。ツーバイトやラウンドターンでは、カラビナのマイナーアクシスを防ぐ必要があり、マスターポイントにはクローブヒッチによる固定が求めらます。この方法を行うことでナイロンスリングで33kN、ダイニーマスリングで26kNと充分な強度を得ることができます。 いずれの場合も長さが短くなってしまうので、中間支点用も含めて長いスリングが求められます。

 

素材特性としてナイロンロープには僅かな伸びがあり、結び目を作ることで衝撃吸収効果が期待できます。また結び目による強度低下率も他の素材に比べると低いことから、終了点構築に適していることが分かります。

水濡れで25%、凍結で50%程度の強度低下が認められるため、支点構築には充分な注意が必要です。氷結が考えられるアイスクライミングや雪山登山では、ツーバイト、又はクワッ ドアンカーによる支点構築を基本とすることで、氷結による強度低下が起きても16.5kN前 後となり、最低限必要となる15.3kN以上の強度が出せることとなります。

また岩角断裂耐性が低いので、岩角接触には十分注意しましょう。

 

ダイニーマスリングは濡れによる強度低下が起こらない、岩角断裂耐性が高い事が大きな 利点です。また繊維強度がナイロンの4倍も大きいため、同じ強度を出す為に必要な総体積が1/4に抑える事ができます。(実際には純粋なダイニーマのみのスリングは少なく、欠点を補 い合うためにナイロン繊維も併せて使われている場合が多い事から、単純に1/4にはなりません。)

この様な特性から、中間支点への利用が望ましと考えられます。中間支点においては岩角接触の可能性もあり、岩角断裂耐性の低いナイロンは適しません。またスリング本数も増えるので、総質量の少ないダイニーマスリングは携行面でも優れます。

一方で結びによる強度低下がナイロンより大きい為、ダイニーマスリングに強度低下率の大きな結び目を作ることは可能な限り避けるべきです。

立木などに 中間支点を設置する場合、ツーバイトやラウンドターンで構築すべきであり、180cm ~ 240cm程度の長いスリングの用意が求められます。アルパインクックドローの場合は結び目を設けないので、60cm ~ 90cm程度のものが望ましいでしょう。

 

ケブラーは圧倒的な耐熱性や岩角断裂耐性を持ち、繊維強度もナイロンの倍程度あります。この為、ナイロンよりも軽くコンパクトにできる利点があります。

一方で結びによる強度低下率が著しい事は致命的欠点です。それでも販売されているケブラーロープの元々の強度が高く、ベアール製5.5mmケブラーコードをダブルフィッシャーマンズベンドで繋いだ場合、20kN の破断強度が認められます。 エーデルリッド製7mmナイロンコードをダブルフィッシャーマンズベンドで結んだ場合、 同じく20kN程度の強度となるので、補助ロープとしての強度的不利はあまりありません。

補助ロープによる支点構築は長さがあるので、岩角接触する場合も多いもの。大岩への捨て縄に使用する際にも破断リスクは小さくなります。また7mmナイロンコードよりも重量、体積共に小さく、携行性に優れる事から、ケブラーコードは補助ロープとして優れて いると言えるでしょう。

耐熱性が高い事、ロープ径が細いことからフリクションコードとしての用途にも適していますが、濡れると急激にフリクションが高まることからロックして動かなくなり可能性について注意が必要です。

 

 

もう一度おさらい!

 

ナイロン

 

利点 衝撃吸収性が期待できる / 結びによる強度低下が小さい / そこそこ熱に強い

欠点 濡れたり凍ったりすると強度が低下 / 岩角断裂耐性が低い / 重い / 嵩張る

 

ダイニーマ

 

利点 強度がナイロンの4倍 / 水濡れによる強度低下が起こらない / 岩角断裂耐性が高い / 軽量コンパクト

欠点 熱にめちゃくちゃ弱い(ロープの摩擦で切れる可能性あり) / 結び目による強度低下が大きい / 衝撃吸収しない

 

 ケブラー

 

利点 圧倒的岩角断裂耐性 / 圧倒的耐熱性 / 強度はナイロンの2倍 / そこそこ軽量コンパクト

欠点 結びによる断裂強度低下がとんでもなく著しい

 

 

ちなみに個人的には装備を以下のように携行しています。

 

・7.5mm ハーフロープ 7.5m(補助ロープとして携行)

・5.5mm ケブラーコード 1.5m(フリクションコード)

・5.5mm ケブラーコード 2.5m × 3本程度(中間支点用)

・180cm ナイロン外被ダイニーマコアソウンスリング(支点構築用として携行)

・120cm 衝撃吸収性ナイロンスリング(プアなアンカーでの支点用として携行)

・ショックアブソーバークイックドロー(0ピン用)

 

 

素材の選択において大切なことは、ひとつひとつの素材における特性を踏まえ、使用箇所 や使用方法を考えることが重要です。

また選択していく上でクライミングにおける物理 理論や製品規定による発生最大エネルギーについても理解しておく必要があります。

ここに記した内容を元に、自分の山の在り方に合わせて道具を選択し、安全な登山に役立てて頂けたら嬉しく思います(*^^*)