バックパックは何が良い?

 

登山と言うカテゴリーのアクティビティーをもっと大きな分類に属させるとすれば、それはバックパッキングの一種に分類されるのではないかと思います。登山とはスポーツではなく旅であり、そこには生活のための道具を持ち歩く必要があります。

登山を楽しむ上でまず最初に必要となる道具はバックパックであり、それがないと始まらないと言っても過言ではないでしょう。

 

バックパックの選択については行うアクティビティによって全く変わってきます。
縦走登山を快適に楽しもうと思えば、背面のしっかりした大型のバックパックを用意し、充実したキャンプ道具を持ち歩くべきでしょう。一方でトレイルランニングなどでは、ベストにバックパックが取り付けられたような、体にフィットした必要最低限の荷物を収めるだけのものが求められます。

この様に、同じ登山というジャンルであっても、アクティビティによって選ぶべきバックパックの選択は大きく変わってきます。

自分自身を見ても、5つものバックパックを持っており、やはり使用用途によって使い分けています。
でも凄い本音を言えば、たぶんバックパックはひとつで本当は事足りるんだと思います。

実は1種類のバックパック以外ほとんど使っていないと言う現実があり、それさえあれば僕の登山は行えちゃったりします。

現在使っているのは上の写真にあるアークテリクスの " alpha fl 45 " 。

45Lということになっていますがそれは最大まで拡張した状態であり、上の写真の状態では33Lとなります。
なにもこれが一番良いよとおすすめしているわけではないのですが、代々40L前後のアルパインパックを愛用しており、そのあたりのサイズが一番使いやすいかなと感じています。

40Lは夏の二泊三日、冬の一泊二日までの幕営山行をこなすことができるサイズとなります。その一方でパッキング次第では日帰りでも大きすぎるということも無く、最もオールマイティーに使えるバックパックサイズであると思います。

 

Black Diamond の スピード40。
雨蓋は使わず、取り外して使っていた。表記容量以上に入ってたと思う。使いやすいバックパックだった。

 

オスプレー の ミュータント38。

シンプルながら機能が多く、三代連続で使ったバックパック。

長く使ったが、個人的には余計な機能も多かった。

 


Black Diamond の ブリッツ28。
ちょっと小さすぎな選択だった。幕営装備は夏の一泊二日でギリギリ。現在はスポーツクライミングに出かける時用に使用。

 

現在愛用中のメインザック、アークテリクス alpha fl 45。

未拡張の状態で33L で個人的には調度良い。冬期一泊二日幕営装備でロープまで入れてちょうど45Lに収まる。

 


 

このサイズでは小さいとの意見も受けますが、ファーストエイドキットは普通の人より大きめだし、夏場は化繊のビレイパーカーを防寒着にしているのでダウンよりずいぶん嵩張ります。冬なら寒がりなので総重量600gほどのモコモコなダウンジャケットを持っています。当然それに予備の手袋なども入ります。
ヘッドライトだって明るさ重視でやや大きめなものだし、忘れ物した同行者のための予備のヘッドライトも入っている。更には贅沢装備に携帯用のテーブルや夜の読書を楽しむためのランタン、アンダーウェア上下も緊急時の着替え兼寝間着。さらにダウンパンツまで持っていきます。その他、5,000mAhのポータブルバッテリーに、浄水器、GoPro、衛星電話、無線機、カメラ、折りたたみ傘など、たぶん普通の人が持たない装備も持っています。

夏も冬も、日帰りでも寝袋、マット、シェルター、非常食を持ち歩いています。業務において万が一の安全に備えるって、けっこう荷物が多いものです。でも、上手に詰めれば33Lにもまぁ入るものです。

(強いて言えばシェルターはテントでなくツェルトを使っていますので、1.5L~2Lほど有利なのは事実ですが^^;)

 

僕は二室タイプのバックパックは使いません。

重量的に不利である、壊れやすい、防水性が低いなど様々な理由がありますが、最大の理由はパッキングがしにくい。

 

山行途中に取り出すものってけっこう限られてて、装備のほとんど全てはイレギュラーに対応するものがほとんどです。

行動中に使う可能性の高いものほどバックパックの上の方に入れ、さらに使う可能性の高い小物類はサコッシュやチョークバッグなどに入れて行動します。

行動中に使うことの多い道具は可能な限りバックパックを降ろさずに行動できる状態にし、雨でも降らない限りはほとんどバックパックを降ろさなくて済む状態にしています。

 

もちろん二室タイプのバックパックにも荷物を仕分けやすいことや底の方の荷物を取り出しやすいなどの利点もたくさんあります。

長期のバックパッキングなど、寝袋や着替えだけ取り出したいシーンが多いような旅には二室タイプに限るでしょう。

ただバリエーションルートやアルパインクライミング、シビアな岩稜登山などを行う際には、藪への引っ掛かり、横風の影響、マスの集中化によるバランスの取りやすさなどからバックパックの小型化が求められます。

よりコンパクトなパッキングで、荷物を運ぶと言うシンプルな機能に的を絞った時、その選択は一室のアルパインパックに求められるものが集約されるのではないかと感じています。

 

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現在使用しているアークテリクスの alpha fl 45 は、これまで使ってきた中で一番自分自身にマッチしたバックパックであると感じています。

丈夫で強度に高い素材を使い、実にシンプルな形に仕上がっています。完全防水なので沢登りなどでも中の荷物が濡れることはなく、670g と超軽量ながら背面には硬質ボードが組み込まれ内部の荷物が背中に干渉することありません。ウェストベルトはただのシンプルなテープタイプながら、その取付角度と位置が絶妙で、ハーネスを装着した状態でもっともマッチする設計になっています。
常にハーネスを装着しているアルパインクライミングのシーンで使用するのであれば、これほど使いやすいバックパックもなかなか無いでしょう。
その一方で、ハイドレーションには対応していない、雨蓋が無い、サイドコンプレッションベルトもサイドポケットも無い。
あまりにもシンプルな構造となっているので、使いこなしには工夫が必要です。
小物類はサコッシュとチョークバッグを使い、水と行動食はナルゲンボトルにいれてカラビナでショルダーベルトにぶら下げるなどの工夫が必要です。
カメラや無線機はショルダーベルトの胸付近に固定していますが、これにもやはり工夫が必要です。

パッキングサイズも、拡張なしで全てバックパック内に収めようとすれば33Lと小さいのでより難易度も上がります。
それでもきちんと使いこなせるのであれば、alpha fl 45 は素晴らしいバックパックであると感じます。

 

バックパックの選択は個々の自由です。
しかし5L程度の小さなバックパックから100Lを超える大きなバックパックまで売り場に溢れている中、どんなバックパックを選べば良いか悩んでいる方に対するひとつの指標として40L前後のシンプルなアルパインパックの選択を指標として示しさせて頂こうと思います。
初めて山登りをする際に買うバックパックを40Lにしておけば、適当にものを詰めても日帰りならばまず困ることはありません。
少し慣れて小屋泊で泊まり登山をするようになっても十分足りるし、パッキングが上達してくればテント泊、日帰りアルパイン、冬季登山、冬季テント泊登山、冬季幕営登攀装備になっても対応できます。
日本の登山シーンにおいて、一泊二日程度までであればほとんどすべての方にとって使いやすいサイズだと思います。

 

20年を超える登山歴の中で、それこそ本当に様々なバックパックを使ってきました。でも結局の所、中学山岳部で先輩に言われた40Lと言うサイズ、同人系山岳会で先輩に言われた35Lというサイズ感は、概ねそれがひとつの答えなのかなぁなんてここに来て感じています。

バックパックの選択は本当に悩むところだとは思いますが、理想のバックパック選びのひとつの参考にして頂ければ嬉しい限りです。

バックパックに詰め込むのは、安全に関わる装備と山行計画を馳せる思い、そしてギュウギュウに詰め込んだロマン!
頭を捻って僅かな隙間に詰め込んだコダワリの道具をもって、さぁ、旅にでかけよう!!