最強最速の瞬間湯沸器

 

初めに身も蓋も無いことを言ってしまいますが、登山におけるクッカーやバーナーなど、調理器具の在り方に答えはないと思っています。と言うのも、登山を行う人によってその目的は大きく異なるから。

例えば豪華な食事や大火力の調理器具、美味しいお酒にデザートまで担いで上がる山の在り方もまた、ひとつのスタイルとして大いにありだと思っています。一方で最軽量を目指し、利便性を無視してでも行動中の快適性を最重要視する考え方も良く分かります。
僕の場合はと言うと業務で山に入ることが多く、万が一に備えた装備である必要性があります。登攀も伴うので可能な限り小型軽量である事が問われるのですが、その一方で確実性が求められたりもします。
例えばツェルトで軽量化しながらも浸水に備えてシュラフカバーを持っていくとか、ファーストエイドキットは必要最低限を考えながらもある程度の重症対応まで考えた装備内容になっているし、全体で可能な限りの軽量化を考えながらも衛星電話や無線機も備える。持っていかなくても良い装備は徹底的に省き、持っていかなくてはならない装備は軽量化を考えながらもその中で最大限の安全性を優先した装備の在り方にしています。

 

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僕にとってのバーナーは調理器具としての目的に留まらず、時には生命維持に関わる重要な役割を果たします。

 

登山において起こりがちな生命に関わるトラブルのひとつに低体温症があります。冬はもちろん、夏の沢登りや風雨による冷えでも、低体温症による死亡事故は発生しています。
中度症状以上となった低体温症の方を焚火などで加温すると、抹消の冷たい血液が心臓に戻ってショック死する場合があります。これをアフタードロップと言います。

アフタードロップを避けるためにはプラティパスなどにお湯を入れ、お腹から胸の辺りを温める中枢加温が必要となります。

また凍傷対策時もお湯を沸かす必要があります。一定の温度で解答するために、何度もお湯を足す必要があります。
ファーストエイドにおいては、素早い湯沸かし性能と、何度もお湯を沸かす為の燃焼効率が求められます。

 


水作りにおいても燃費は重要で、雪を溶かして水を作るのはかなり長時間かかります。無雪期に関しては浄水器を使えば簡単に水を作れますが、万が一浄水器を流してしまうようなミスを犯してしまった場合、水の煮沸が必要となります。
この様に水作りに関しては大量のお湯を沸かす必要があり、これが2~3日に及ぶ場合には大量の燃料が必要となってしまいます。

これらを解決するのに大いに役立っているのが、誰もが知っている名機 " ジェットボイル " です。

※ 写真は旧モデルです。

 

僕とジェットボイルの関係は今から10年ほど前に始まりました。

それまでは中学3年生の時に買ったスノーピークの " 地 " を10年ほど愛用しており、すっかり変色したそのバーナーと鍋を偏愛していました。しかしある時会社の後輩とキャンプツーリングにでかけた時の事、そいつが取り出したヘンテコな鍋があっという間にお湯を沸かしてしまったのです。たぶん僕のバーナーの半分以下の時間で…。
あまりの衝撃にそれまで幾千の旅を共にした人生の相棒を切り捨て、とっとと新しい娘に乗り換える驚きの浮気性っぷりを発揮する事となりました。
その娘とは今も尚、交際が続いています。

 

しかしこのジェットボイル、トラブルによりこれまで何度か買い直す事になっています。
初代の子は墜落時にぶつけて潰れ(これはジェットボイルの責任ではない…。)、二代目のチタンモデルの娘は水作りの際にフラックスリングが融解し(これも説明書にやっちゃダメって書いてあるけどね…。)、最近まで使っていた三代目の娘はカップがヒビ割れ、蓋はなんかゆるゆるに…。(加水分解だろうか?)
大凡3年半毎に壊れるジェットボイル。そしてそのタイミングで良いモデルが出てくる不思議。まるでアップルタイマーの如し!?(何度も言いますが、主に自分の責任で壊しています…。)

これまでジェットボイルは火力を上げると火が横に漏れてしまう問題により、高出力モデルを作る事ができないでいました。

しかし技術進歩により、新しいモデルはついにこの問題を解決したようです!

 

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最新版のジェットボイルは 2,269kcal まで火力が強められています。

恐らくより横に広がりにくい火口を開発し、高出力で炎出してもフラックスリングから漏れなくなったものと思われます。

これまでは高火力にするとフラックスリングから炎が漏れ、無駄にエネルギー消費する事となってしまっていた様です。

脇に漏れたエネルギーは無駄になるだけでなく、ネオプレーンのコージーまで燃やしてしまう問題もあり高出力化できなかったんです。

現在の技術でできるギリギリ限界が 2,269kcal と言う数字なのでしょう。以前のモデルと比べると明らかに力強く、縦一直線に火が立ち上がっています。

一見すると最新の高出力モデルと比べると見劣りする数字ではありますが、この手の高効率クッカータイプの調理器具の場合、単純な火力だけでは比べることができません。

 


ジェットボイルの場合その熱効率は凡そ2倍!実に 5,400kcal の出力に匹敵するエネルギー効率となります。それにより2018年モデルでは、ついに500mlを1分40秒で沸かすという驚異的な数字を叩き出しました!!


しかも実際にはその半分の出力の炎しか出てないわけで、熱効率がとても優れることになります。

実際に一般的なシングルバーナーで100g程度のガス缶を使った場合に沸かすことができるお湯の量は6L程度ですが、ジェットボイルではその倍の12L沸かすことができます。つまりは凡そ半分の時間でお湯を沸かせるということです。

ガス缶を加えると600g程度とやや重いバーナーではありますが、12Lの湯沸かしを考えると最軽量クラスの重量となります。例えば以前使っていたスノーピークの " 地 " と、シングルマグ600の組み合わせでは、ガス缶を含めて凡そ400gと軽量でした。仮にこのセットで12Lのお湯を沸かそうとすると凡そ600g。総体積も含め、ほぼ変わりません。
最軽量セットでは1度に沸かすことのできるお湯の量は300cc~400cc程度でしたが、ジェットボイルであれば500cc。丁寧に管理すれば700cc程度のお湯を一度に沸かせます。湯沸かしの時間も倍程度違います。この差は圧倒的な効率の差となります。

 

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僕の場合、仕事でもプライベートでも登攀的な山行が多く、安定した地面が得られないケースも多くあります。

幕営時の調理だけで言えば、安定した場所を見つけた上で泊まる場所を決めるので調理に困ることは稀です。しかし緊急時にお湯を沸かすような場合、不安定な場所でお湯を沸かさなくてはならない場合もあります。

この様な場合、鍋とバーナーが一体化したジェットボイルはとても便利!

鍋を直接持って、宙に浮かせたままお湯を沸かせることができます。 これは緊急時に役立つだけでなく、例えば冬季に水作りをする時など、片手を鍋に添えて手を温めながら、もう一方の手でガスバーナーを温めてガスの火力を保つことができます。手が冷えてきたら手を入れ替えることで、継続して火力を保てます。

とても効率的です。

 

 


温まってくると色が変わって教えてくれます。蓋を締めてても沸騰タイミングが分かって便利です♪

 

フラックスリングを保護する底の蓋はカップとしても使え、50cc毎に計れる計量カップとしても使えます!

 


僕の登山のスタイルでは、もうジェットボイル無しの山行は考えられないくらいに頼もしい存在となっています。
しかし全ての人にとって理想の調理器具とはならないことも考えられます。
と言うのも、ジェットボイルはとろ火にしても鍋に伝わる熱量が高く、どうしても料理が焦げがち。本格的な料理をしたい方にとってはとても使いにくい調理器具となってしまいます。
アルファ米、レトルトカレー、カップラーメン、マジックパスタなど、お湯で戻して食べる食事中心で食料計画を立てる方向けの鍋だと思います。僕はそれで特に問題は感じて無く、例えば豪勢な食事にしたい時などはコンビニのレトルトパウチのハンバーグや角煮などのおかずを持っていってボイルしています。これで十分に豪勢な食事が用意できています。
この辺りは考え方が様々ですので、自分に合った調理器具を選択すべきでしょう。

 

また個人的には例え調理を伴わない山行でも、火器類は必ず持つべきであると考えています。

低体温症を引き起こさない様に暖を得る為には、火が起こせなくてはなりません。素早くお湯を沸かし、湯たんぽで中枢加温できる事は、低体温症対策においてとても重要です。
それは必ずしもジェットボイルである必要は無いかと思います。何かしら用意しておくことを推奨します(調理を伴わない山行ならば以前使っていたスノーピークのセットを持っていきます。でも雪山ならばジェットボイルかな?)

 

この記事を読んで頂いた方の道具選びのひとつのヒントとなれば幸いです。

ありがとうございました!