登山で使う雨具の在り方

 

登山で雨具の話をしだすと、もうほとんどゴアテックスのレインスーツ上下こそが正解だみたいな話になりがちですが、それってどうなのかなって個人的には思っています。
防水透湿素材のレインウェアって、気温が低かったり風が強かったりする環境においてはすごく機能的なんですが、実は樹林帯のように気温と湿度が高い条件下は苦手だったりします。

というのも、防水透湿素材は衣服内の湿度と外部の湿度に差が生まれ、衣服内の湿度が高まってから初めて透湿し始める特徴があったりします。標高が高く気温が低い場所では、衣服内の温度が高く水分がより多く飽和できる環境と比べ、外部の大気内水分量は少なくなります。この様な条件下の時に防水透湿素材のレインウェアが活きてきます。

だから冬季山行などで防水透湿素材のウェアを使うと、それこそばっちり機能してくれたりします!

 

でも森林限界以下の環境はと言うと、衣服内の温度と外気の温度差が小さく、大気中の水分量に差が生まれにくくなります。この様な状況ではほとんど透湿しない場合もあるようです。

では何故レインスーツが良いと言われるかと言えば、風が入らない密閉された状況を作ることができるから。
強風に晒される森林限界以上の稜線上において、雨風の入る隙間のないレインスーツは、防寒と濡れ防止において大いに役立ちます。しかしこれを低山に置き換えると、むしろ湿気が抜けないで結露で衣服が濡れがちだし、雨が降る季節で言えばもうレインスーツなんて着て歩けないくらい暑く感じてしまうものです。
全然快適じゃない。

でも当然フードを脱いだり、ファスナーを開けてたりすれば雨水に晒され、今度は低体温症のリスクも生まれます。

森林限界以下の山域において、レインスーツこそがベストな選択とは言い難い場合もあります。

 

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内外温度差の小さく、また風による影響の少ない森林限界以下の山域においては、むしろレインスーツを選択する意味が小さくなります。

であればもっと蒸れない選択をするのもありかなって思ったりもして、例えばポンチョとか使えば隙間が大きくて空気が対流し、根本的に蒸れにくくなったりします。

究極系を言えば、傘を使えば一番蒸れない状況で行動できます。あらゆる雨具の中で唯一蒸れない雨具が傘であり、土砂降りの雨の中で一番快適に過ごせるのはたぶん傘だと感じています。

しかし一方で足元の濡れには弱いので、例えばレインパンツだけ履くなり、レインチャップスを使うなりすればその問題も解決します。

 


レインチャップスってあまり聞かないかも知れませんが、足元から腿までを覆う、おしりの部分が無い雨具のことです。

これもまた結構便利で、例えばクライミングハーネスを付けているときなどでもハーネスを脱がずにそのまま履けちゃいます。
傘やポンチョと組み合わせれば、雨具としては完結します。

 

もっともこれは比較的安定した状況であることを前提としており、鎖場や岩場が連続するような環境ではやっぱりレインスーツが優れています。しかしレインスーツを着ている状況でも、傘を併用することで濡れは大幅に軽減されます。
傘の下には雨が着ません。あたりまえのことですが、でもそれって衣服の外側の湿度を下げるって事になるわけですよ。
たぶんですが、それで透湿性能が向上し、蒸れが解消されるのではないかと感じています。

 

あとこれは個人的な考えですが、強い風に晒されない環境下であれば、むしろ足元は濡れても構わない気もします。
無雪期であれば足元が濡れたからと言って、動き続けている限り寒さは感じません。夜にテントで着替える衣服を持っているのであれば、足元は濡れること前提で行動しても構わないと考えています。
靴もラバーソールの沢靴を使うなどし、渡渉なども気にせずザブザブ入っちゃう。
上半身だけ守れれば、パンツは濡れても構わない。
その上で上半身はしっかり守る。

 

そうは言っても、傘も併用できるなら、上半身もまた蒸れにくさを優先したジャケットを選択するのも良いでしょう。

Black Diamond の INDUCTION SHELL と言う、シーム処理されたウインドストッパーのジャケットを愛用しています。

ゴアテックスなどに比べると耐水圧はずっと小さくなりますが、短時間の雨や小雨程度ならば問題無く使えています。
なにより圧倒的な透湿性能でムレ感がずっと小さい!
両手を使わなくてはならない時だけ傘を畳み、安定した状況になったら再び傘を併用する。

雨が強い間だけ傘を使い、雨が弱まったら傘を畳む。

使うシーンや状況を良く考え、理解した上で選択するならばかなり快適な雨の登山を楽しめます。

 

雨具も道具です。

真夏に使う寝袋と、厳冬期の寝袋が同じものでは成り立たない様に、雨具も状況によって選択を替えてみても良いのかも知れません。

最初に買う一着はゴアテックスなどの防水透湿素材のレインスーツを選び、少しずつ道具を増やしながら選択の幅を広めていきましょう。
いつでも柔軟に考え、その時の自然環境に良く耳を傾けて何がその時のベストなのかを選択しましょう。

自然が変化する以上、道具も同じじゃダメだと思うんです。

 

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登山はイマジネーションです。いつも豊かに想像し、理想を追い求めること。それが山の安全と快適性に繋がっていきます。

いつも何が理想かを考え、ひとつの固まった考えから脱し、自由な発想の先に新たな答えがあるんだと思うんです。

雨の登山は不快な事が多いものですが、しかしそれを想像し、考え、工夫することでずいぶんと快適に過ごせるようになるものです。
今ある常識が必ずしも答えだとは限らない。いつもより良い考えを発想し続けましょう!
ここに記した考えが、ひとつ皆様のヒントになれば幸いです。