雲上のスリーピングマット

 

スリーピングマットに関して、僕は理想と呼べる道具になかなか出会えないでいました。

フォームマットは地面からのデコボコが伝わるし、インフレーターマットはツルツル滑る。寝心地は良いけど、どうにも寒いエアマットも夏以外はなかなか辛かったり。山での眠りはいつも浅く、みんなそんなものなのかとも思っていました。

ある時アイデアが思いつき、エアマットの上に薄いフォームマットを重ねる方法をとっていた時期もあります。これはこれで素晴らしい組み合わせでした。厳冬期でも寒くなく、岩の上でも寝心地抜群!でも2枚もマットを持っていくので荷物が重くなるし、フォームマットはやっぱり嵩張ります。
森林限界以下で高難度な登山を行う事が多いので、藪や狭い岩の隙間はつきもの。ちょっとこれでは不都合が多かったんです…。

 

そんなある時、友人から面白い話を聞かされました。

彼は日本人最年少で世界最難関である K2 に挑んだ凄い漢。(結果は雪崩にのまれて敗退となりましたが…)
そんな彼が高所登山の時に使っていたのがエクスペドのダウンマットでした。

人間は高所に上がると、低酸素の影響でどうしても睡眠が浅くなったり、消化機能が低下したりします。日々の睡眠不足と食欲不振、下痢によって体力がどんどん消耗していく。高所とは生物が生存できない世界なんです。

しかし彼はエクスペドのダウンマットを導入して以降、高度7,000mを超えても爆睡でき、その結果か食欲もモリモリ、うんこまで固形なものがでていたとか!?

当時の彼が若かったと言うこともあるかとは思いますが、消化機能が低下しなかったのは睡眠に大きく影響してそうだと推測できます。やはりパフォーマンス維持において睡眠はとても大切です。

 

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そんな話を聞いたので、すぐにダウンマットを導入してみました。
ダウンマットとは、エアマットの中にダウンを詰め込んだものです。そもそもエアマットがどうして寒く感じるかと言うと、地面との接触箇所から内部の空気が冷やされて対流してしまうからです。
そのエアマットの内部にダウンを詰め込んだのがダウンマット。内部で空気がダウンによって阻まれて動き回らないので、体に触れている側の空気は暖められ、そこに留まります。

これが抜群に温かい!
ダウンによる空気の流れの抵抗により、寝返りをうった際にもエアマット特有のボヨンボヨンした感覚も大幅に軽減されています。これに変えてからほんと爆睡です ♪

 


それ以来エクスペドのダウンマットの大ファンで、その寝心地の良さから夏でも使っている事が多いです。

当時購入した商品は1kg近くある重たいマットでしたが、現在愛用している " DUWNMAT UL 7S " と言う商品は、163cm × 52cm × 7cm のサイズで重量500gと大きく軽量化されました。それでいて R値 5.9/-24℃ と言うとんでもない断熱性を誇ります。

残念ながら廃盤となりましたが、2018年現在の最新版として出ている " DownMat HL Winter M " は、183cm × 52cm × 9cm と全身を完全に覆うサイズでありながら、重量475gとさらに軽量化。しかも R値 7/-35℃ とさらに高いスペックを備えました。
個人的に廃盤となったレクタ型のマットの広々とした感じが好きでしたが、軽量化と保温性の向上を両立させる意味ではマミー型にする必要があったのも納得できます。

 

 

スリーピングマットの在り方は個人の考えによる部分も大きく、一概にこれがベストと言う訳でもありません。とあるお客様が " 例え睡眠が浅くなっても、全く問題無いくらい体力が温存できるほどの軽さ " に拘っており、なるほどなと、そーゆー考え方も有りなのかもなとも思いました。
スリーピングマットのシステムを軽量化しようとしたら、たぶん100g程度まで削る事ができるでしょう。僕のこのマットの在り方と比べると、400gもの差が生まれます。この積み重ねで、すぐに 1 ~ 2kg 程度の重量差が生まれるでしょう。
山には山登りを楽しみに行っているのであり、キャンプを楽しみに行っているわけではない。歩行や登攀の快適度こそが最重要であり、それ以外を犠牲にする。それもひとつ、良く分かる考え方です。
逆に重量が重くなってでも、もっと厚手で幅広なマットであればより快適な睡眠が得られるでしょう。

 

考え方は様々ありますが、僕はこのマットがとても気に入っています。(そもそも全身サイズで500gは軽いほうですしね!)
まさに雲の上に浮かんで寝ているような寝心地で、背中を暖かく包み込んでくれています。

経験上、寒さ対策に特に重要なのが地面との断熱性。十分に温かいマットを用意すれば、寝袋は案外薄くても暖かく眠れたりします。山の睡眠において、何よりも大切なのはマットの良し悪しでないかと思います。
もし山で眠れずに困っている方がいるのであれば、是非ダウンマットを試してみて下さい!

きっと爆睡の夜を送ることができますよ♪