懸垂下降のやり方

 

少し本格的な登山を楽しもうと思ったら、まず最初に必要となる技術が懸垂下降ではないでしょうか?
特にバリエーションルートなどに出かける場合や、穂高、剣、西上州エリアなど、岩稜が続くエリアでの山行においては、僅かな判断ミスで進退窮まる場合があります。登るには登れても、人間は下るのが苦手な生き物。岩塔のてっぺんで身動きが取れなくなるかも知れません…。
懸垂下降技術を身につけると、いかなる困難な場所であっても、簡単に、且つ安全に下ることができます。そこが例え足のつかない完全なる空中でも、まったく問題無く下ることができます。
しかし一方で、安全に下るはずの技術なのにも関わらず、クライミング中の死亡事故ワースト1なのもまた懸垂下降技術です。
そのほとんど全ては、ほんの僅かなケアレスミス。ヒューマンエラーによって発生しています。
ほんの少し昔まではビレイループに直接ビレイデバイスをセットして下降するやり方が一般的でしたが、その結果多くの死亡事故が発生し、現在ではバックアップシステムを設けた懸垂下降システムが世界的な標準となっています。

バックアップシステムを設けた懸垂下降システムとその概念は、ひとつのインシデントが発生しても即アクシデントに繋がらない安全性の高いシステムです。
安全を第一に、しっかりと技術を学びましょう。

 


懸垂下降を開始する時には、まず最初にセルフビレイを行いましょう。懸垂下降における死亡事故で一番多いのは、懸垂下降の準備を行っている最中の転落だそうです。
続いてロープをセットします。2本のロープをつなぎ合わせる時には必ず二重のオーバーハンドノットで接続します。エイトノットでの接続が一般的でしたが、開き方向の強度が弱いことが分かってきており、実際に死亡事故も起きています。オーバーハンドノットでの接続が現在の世界基準となります。

ロープを支点に通したら、振り分けを行います。ロープの半分程度を首に振り分けたら、もう半分は手で振り分けます。末端は1m程度余らせてすっぽぬけ防止の結びを作ります。
首に振り分けた支点側のロープから下ろし、続いて末端を除くその他のロープを下ろし、最後に末端側のロープを下ろすと絡まりません。ロープは利き手側に来るようにしましょう。



懸垂下降のバックアップはフリクションヒッチで行います。
もっともポピュラーなセット方法はマッシャーによるバックアップシステムでしょう。
フリクションヒッチは 7mm × 150cm のロープスリングを利用することを推奨します。それより細いとロープがスタックする場合がありますし、墜落に耐えられるだけの強度がありません。また7mmより太いとロープへの効きが甘くなります。

フリクションの効き度合いはメインロープとの相性が深く関わります。大凡3巻、ないし4巻となりますが、必ず使用前に一度テンションをかけ、しっかりとロックするか確認しましょう。ここが効いてないと、バックアップシステムとしての役割を果たしません。

フリクションヒッチによるバックアップシステムの接合は、安全環付きカラビナを使用し、ビレイループへ接続します。



ビレイデバイスはセルフビレイに使用しているランヤードの中間にセットしましょう。ビレイデバイスはダイレクトビレイに対応したものがおすすめです。懸垂下降途中からの登り返しシステムの構築が容易になります。
ビレイデバイスが離れすぎてしまうと岩角でのスタッグの原因になったり、登り返しシステムが構築できなくなったりします。必ず手の届く範囲にします。一方で近すぎても問題があり、バックアップのフリクションヒッチがビレイデバイスに触れてしまうとロックが解除されてしまい、バックアップとしての機能を果たさなくなります。
フリクションヒッチが触れない距離であり、且つ手の届く範囲でのセットが求められます。
準備ができたらビレイグローブをし、セルフビレイを解除して懸垂下降を開始します。聞き手でフリクションヒッチの下を持ち、左手でバックアップを解除しながら下降開始します。



懸垂下降中は可能な限り墜落荷重を発生させないように下りましょう。トントンと跳ねるように降りると支点に対して墜落荷重が何度も発生します。信頼性の低い支点の場合、これによる崩落のリスクが高まります。一定の速度で後ろ向きに歩くように降りましょう。

懸垂下降中にロープの絡まりなどが発生していた場合、まずフリクションヒッチをしっかりと効かせ、続いてフリクションヒッチの下に結びを作って流れ度目を行います。こうすることで両手を離して確実に作業が行なえます。
一番最初に下降した方は、ロープを引いて回収可能か確認します。回収可能であることが確認できたらコールを出し、次の人が下り始めます。
最後の人が下りきったら、ロープの末端を引いてロープを回収します。これを繰り返し、平地まで下ります。



 

懸垂下降を一番最初に行う方は、合わせて登り返し技術も身に着けておきましょう。
懸垂下降を開始する支点箇所から、下ろしたロープの末端が確認できないことも多いものです。長い距離の懸垂下降の場合、ロープの末端が確実に地面まで届いているか分かりません。もし地面に届いていなかった場合には、ロープを登り返して別の支点を設ける必要があります。
もし登り返し技術を身に着けていないと、宙吊りのまま身動きが取れなくなります。長時間宙吊りになっていると、例え後から救助ができたとしても、下腿に鬱積した血中毒素が一気に開放され、ショックを起こして死亡するリスクが高くなります。
懸垂下降の登り返し技術を誰一人身に付けていないパーティーは、懸垂下降を行う資格はないと思います。
併せて必ず学習しておきましょう!

 

懸垂下降を身につけることで、登山の幅は確実に広がります。

安全で確実な技術を習得すれば、これまで行けなかった冒険的な山行にも挑戦できるかも知れません。
是非、今よりもう一歩先の世界へ足を踏み入れてみましょう!!

 

 

懸垂下降技術を行うには、覚えなくてはいけない細かい事が沢山あります。見よう見まねで行うと非常に危険です。必ず十分な経験者の指導の元、確実に技術を身に付けましょう。

Kuri Adventures では懸垂下降技術を講習にて指導しています。お近くの方は是非 Kuri Adventures 登山教室の懸垂下降技術講習を受講願えましたら幸いです。皆様のご参加をお待ちしております。

 

 


【週末一日講習】懸垂下降技術講習

 

危険な箇所を安全に下るための技術、それが懸垂下降です。しかし実はクライミングにおける死亡事故ワースト1なのもまた懸垂下降であったりします。そのほとんどすべてがケアレスミスによるヒューマンエラーで引き起こされています。

この講習では、懸垂下降技術と登り返し技術をセットにしてお伝えしています。

 

料金:12,000円(税別)



【平日夜講習】懸垂下降基礎講習

 

懸垂下降は、とても下りることのできない急峻な崖を安全に下るための技術です。
バリエーションルートや沢登りなどの本格的登山を楽しむ上では、絶対に身につけておかなくてはならない必須技術です。
Kuri Adventures では安全性の高い、バックアップシステムを設けた懸垂下降技術をお伝えしております。

 



【平日夜講習】懸垂下降からの登り返し技術講習

 

懸垂下降を開始する下降点からは、落としたロープの末端が見えないことがほとんど。懸垂下降を開始して、宙吊り状態になってから初めてその事実に気がつくことも多々あります。

一番最初に懸垂下降を開始する方は、必ず懸垂下降途中からの登り返し技術を身につけている必要があります。しっかりと学習しましょう!