スッポ抜け無いスノーバー

 

 

雪壁登攀や森林限界を超える雪山登山において、重要なプロテクションとなるスノーバー。でもうっかり上方向にテンションがかかる様に打ち込んじゃうと、簡単にスッポ抜けちゃう欠点があります。
そんなスノーバーをカスタマイズ!
富山県警の山岳救助隊員が考案した方法で、通常の30倍もの力に耐えるようになるすごい方法を公開しちゃいます♪


全てが雪に覆われた、厳冬の山。
その圧倒的美しさはまさに魔性の魅力で、一度味わってしまうとまるで取り憑かれたかのように引きこまれてしまう。
雪山登山にはそんな魅惑があります。

 

しかし当然、無雪期の登山に比べてリスクがあります。
特に恐ろしいのが、ある程度締まった雪面が少し溶け出す午後。

その雪面はまるで氷の上に敷かれたシャーベットの様で、とても滑りやすくなります。

アイゼンやピッケルも効きが悪く、一度滑り出したらまず止まりません…。

森林限界以下の山や露岩がある場所であれば、パートナーとロープを繋ぎ合い、木や岩に中間支点を設置しながら登る方法で安全確保が出来ます。しかし全てが雪に覆われた場所では、自然物に中間支点を設置することができません。
この様な場所で役立つのがスノーバーです。
スノーバーはL字、又はT字断面のアルミ鋼材を切り出した棒で、雪に挿して中間支点とする道具です。
ある程度以上の積雪があればどこでも簡単に設置できる便利なプロテクションですが、欠点もあります。

スノーバーはその構造上、通常横方向にしか力がかかりません。
このような場合には大変強い保持力を持っている優れたプロテクションとなりますが、実は上方向に引き抜く力にはとても弱いんです。
滑落時は上から下に落下するので、通常そう簡単には抜け無さそうなものですが、ある特定の条件下においては簡単に抜けてしまったするんです。

黒い線が雪面、赤い線がテンションが掛かる前のロープ、黄色い線が点チョンが掛かった後のロープだとします。

 

例えば何段かに分かれている雪壁において、そのテラス部分にスノーバーで中間支点を設けたとします。

図に欠かれたより上にも中間支点を設置した場合、墜落するとロープにはテンションが掛かり、赤いロープは黄色いロープの状態になります。
設置していたスノーバーには上方向の力が加わり、簡単に抜けてしまいます。
もしこの上のプロテクションが墜落衝撃で抜け落ちたとしたら…。

抜けたスノーバーの分もより長い距離落下することになります。
これは生命に関わる致命的なダメージになりかねません。

 

実際にはかなり注意してスノーバーを使うのですが、雪の緩やかな凹凸は意外と気が付かないものです。
知らない間に窪地に設置してしまい、本当に危険な状態の時に仕事を果たしてくれなくなったりします。
この様なトラブルを大幅に減らすアイデアがこのカスタマイズです!

 

カスタム方法は簡単で、スノーバーにスキーシールを貼るだけ。
スキーシールとは、スキーの裏側に貼る滑り止めシートで、一方向に規則的に生えそろった起毛状態になっています。
前へ進むときは毛が寝ている方向に滑るので進みますが、後ろ方向へは逆立った毛が抵抗になって進みません。
この特性を利用して、スキーを履いたまま雪の斜面を滑り落ちずに歩いて登ることができるようにする道具です。
スキーシールをスノーバーに貼ることで、打ち込む時にはスムーズに打ち込め、抜く方向にはスキーシールが抵抗となって抜けにくくなる状態隣ります。
このカスタマイズを行うことで、通常の約30倍。実に200kgを超える力でも引き抜けなくなります。

 

貼る場所は、正面中央部に30cm程度、背面下部に10cm程度貼ります。

剥がれにくくなるように、角は落として貼りましょう。

たったこれだけで、驚くほど抜けにくくなります!!

 

尚、スノーバーを回収する時にはちょっとしたコツがいるので覚えておきましょう。
そのまま引っ張ってもまったく抜けないので、ハンマーで前後に叩いてスノーバーと雪面にクリアランスを作ります。

スノーバーの面が雪に触れないようにそっと抜くと、いとも簡単に回収する事ができます。

雪山登山にはいつも滑落のリスクがありますが、スノーバーを使えばその安全性が格段に上がります。
『この程度なら大丈夫』などと考えず、確実に安全に登りましょう!

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