【 雪山登山技術 】ワカンの正しい装着方法

 

豪雪地やマイナーなルートでは、トレースが無い事も良くあります。一切の踏み跡がない雪面を歩き、自分自身でトレースを刻むこともまた雪山登山の醍醐味のひとつだと思います。しかし雪の深さが膝にも達すると、ラッセルはとても大変になってきます。そこで足が沈まないよう、カンジキを装着して歩くことになります。

スノーシューが有利か、ワカンが有利か。この議論は時折されますが、それは使用するシチュエーションにもよります。比較的なだらかな地形で、且つ豪雪地であればスノーシューが有利でしょうし、急峻な場所や倒木が多い場所などではワカンが有利でしょう。本来であれば行く場所によって選択を変えるべきですが、日本の山ではワカンの方が出番が多くなります。

日本の山は森林限界以下の山域から急峻な事が多く、急登のラッセルを強いられる事も多くあります。この様な場所では倒木や木々の枝が張り出していることも多く、これらを乗り越さなければなりません。取り回しの点からワカンの方が有利でしょう。

また一般的にはトレースのはっきりした人気のルートを歩く方が多いと思いますが、この様な場合にはカンジキの出番はありません。現実的には一日中持ち歩くだけになることの方が多いでしょう。
スノーシューは 1.5 ~ 2kg 程度の重量となりますが、ワカンは 750g ~ 1kg 程度と半分くらいの重さで済みます。ただでさえ重い雪山登山装備の構成の中で1kg前後の重量差はとても大きな差となります。

 

一定以上の積雪量がある山に赴く時は、原則として携行すべき装備であると考えています。特に宿泊を伴う場合、翌日に予想外のドカ雪が降る事もあり、自分たちが歩いたトレースさえも完全に消え去ることもあります。カンジキが無ければ行動時間は大幅に増え、大きなリスクとなることもあります。
そんな重要な道具であるワカンですが、意外なほど正しい装着方法が周知していない様に思います。ここではこのワカンの在るべき正しい装着方法についてお話しようと思います。

 

 

意識せずに装着するとこの写真の様に縦向きのバンドが斜め後ろ方向に傾斜した状態になりがちです。しかしこの状態では、後ろに傾斜した分と同じ長さだけつま先方向にズレる余地を残してしまうことになり、急斜面でのキックステップなどで足が前にズレてしまいます。
またこの位置で強く締め込んでも、縦のバンドが垂直付近になる頃には緩みが発生し、ワカンが左右にずれたり、時には歩行中に外れてしまうこともあります。

 

 

縦方向のバンドが垂直になる位置で締め込みます。この時、縦のバンドは短めにセットしておいた方がズレにくいです。あまり短くし過ぎると脱着しにくくなりますので注意しましょう。予め自宅でセットしておくことが大切です。

 

 

またバンドをリングに通す向きも実はとても大切!
リングの内側から外側に通してしまうと、ちょっとしたことで簡単に緩んでしまいます。外から内に通してしっかりとテンションを掛けることでテープがリングと靴の間に挟まり、摩擦が発生します。この事により手を離しても緩まない状態になります。

たったこれだけの事ですが、明らかにワカンが緩みにくくなるので意識しておきましょう。(逆に何度も脱着を繰り返すようなシチュエーションでは、リングの内から外に通す事で簡単に外せる様になります。但しズレやすいので注意しましょう。)

 

 

ワカンの携行方法って意外と悩ましいものなのですが、僕はバックパックのサイドにバンジーコードをセットし、4点で固定してワカンを装着しています。これならブラブラしないし、脱着もスムーズです!

 

ワカンは現在数社から販売されていますが、個人的にはエキスパート・オブ・ジャパン " ハイスペックスノーシューズ " のフラット形状のMサイズを愛用しています。
反り返りがあるタイプの方が歩行はしやすいのですが、キックステップの際にワカンが雪に刺さりにくい欠点があります。またフラットタイプのものであれば、ワカンをひっくり返してアイゼンと併用して使用する事もできます。クラストとラッセルが交互に現れる稜線歩きなどでは有利です。
重量がとても軽いこと、バンド止めの金具が優秀で、全く緩まないことなども大きなメリットです!(バンドの余分な長さをカットした状態で、両足実測で750gと全アルミワカンの中でも最軽量です。)
昔は中央のテープが切れやすい欠点がありましたが、プラスチックパーツで保護されることで耐久性を飛躍的に向上させました。

 

 

 

ちょっと重いけど、オクトスのワカンもオススメ!
スノーボードのビンディングの様にラチェットで締め込むタイプのワカンで、脱着が圧倒的に楽です。まず緩む事もありません。(縦バンドがワカンに垂直になる位置出しのセッティングは必要です。)
以前はしばらくこれを使っていましたが、片足150gの重量増を許容できるならこれもアリな選択だと思います。

 

ワカンを正しく装着することで新雪の歩行は格段に楽になります。
ちょっとした事なのですが、知ってると知らないでは快適さに大きな差が生まれますので、今回ちょっとご紹介させて頂きました♪
ご参考にして頂ければ幸いです。

 


栗山愛用の軽量わかん

ラチェット式わかん

浮力大きめ、フラット

浮力大きめ、ベンド

緩まないバンド

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雪山登山講習

 

雪山登山に必要な歩行技術、初動停止技術、滑落停止技術、雪洞ビバーク体験、などの技術講習に、実際に谷川岳までの実践山行を組み込んだ一泊二日の雪山登山技術の講習です。

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Kuri Adventures では登山教室を通じて様々な登山技術を指導しています。ロープを使った確保技術などを中心に、主に安全登山に関わる技術をお伝えしています。もっと安全に登山を楽しみたい方、より幅広い登山を楽しみたい方にこそ、是非学習機会を設けて頂ければと考えております。皆様のご参加も心よりお待ちしております!


栗山 祐哉

Kuri Adventures 登山教室の企画全体を受け持つ代表主任講師。

登山歴25年。誰も通らないようなルートを地形図から探し出し、泥と苔の藪岩登攀を好む土臭いアルパインクライマー。

生粋の山道具オタクで、より快適で合理的な登山装備の在り方を日々探求し続けている。そう、インストラクターとしての業務の一環であり、これは断じて無駄遣いではない!!

ロープによる安全確保技術を専門とし、確保技術を多くの登山者に伝えていくことで、遭難死因第一位である転滑落を限りなく " 0 " に近づけることができると信じ、日々活動中。