シングルロープを使った登攀システム

 

クライミングジムやシングルピッチでの登攀システムは基本的にシングルロープを使いますが、一般的にアルパインクライミングやマルチピッチクライミングではハーフロープシステムでの登攀を行います。これにはいくつかの理由があります。
シングルロープはとてもシンプルなシステムで、重量的にとても軽くできることが大きな利点です。この為、より困難なルートに挑戦するスポーツクライミングに適しています。

しかし欠点もあります。ルートが長くなってくるとロープの屈折は大きくなります。ルート上の弱点をついて登攀を行うアルパインクライミングでは、より一層ロープの屈折は大きくなりがちで、屈折抵抗によりロープの流れが悪くなります。
ロープの動きが悪くなると登攀にも影響が出ますし、何よりも墜落時のリスクが増します。ロープは長く出ていれば出ているほどに、ロープ全体の伸びで衝撃吸収を行います。しかし屈折抵抗が大きいと、ロープの伸びが活かせずに支点やクライマーに大きな墜落荷重が発生し、最悪の場合、中間支点が崩落してクライマーが地面まで墜落します。死亡事故の原因となります。
この様な屈折抵抗をドラッグ現象と言い、クライミングを行う上で極力避けなくてはならない現象です。可能な限りロープは屈折させず、直線的にロープが流れる状態を作らなくてはなりません。

 

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そこでアルパインクライミングやマルチピッチクライミングにおいては一般的に、2本のロープを使用するハーフロープシステムで登ります。
はじめから " 黄色いロープは右、ピンクのロープは左 " などと決めておき、右にトラバースしては黄色のロープをクリップし、左にトラバースしてはピンクのロープをクリップするなどとすれば、ロープの屈折率は大幅に下げることができます。
またロープの長さの半分以上の高さに登る事が前提となるアルパインクライミングやマルチピッチクライミングでは、万が一の際にもロワーダウンで下ろすことができません。
しかしハーフロープシステムでは1本のロープを固定する事で簡単に要救助者を確保できるので、スピーディーにセルフレスキューを行うことができます。


シングルロープと比べて細経にできるハーフロープでは、墜落時に支点にかかる衝撃荷重も小さくすることができます。ハーフロープシステムによるドラッグ現象の低減化と相まって、中間支点への衝撃荷重を最小限に留め、支点崩落のリスクを最小限にできます。

リスクヘッジの意味では、万が一1本のロープが断裂を起こしても、もう1本が確保されているので安全性が高くなります。

懸垂下降においても2本のロープを繋ぐので、登ってきた長さと同じ距離を下ることができます。もしロープ1本を折り返しての懸垂下降を行った場合には、登ってきた距離の半分の高さしか下れません。下降に時間が掛かるし、場合によっては懸垂支点が適した場所にない場合も考えられます。

この様に、ハーフロープシステムによる利点は多くあります。しかし一方でハーフロープシステムには重量的に不利であるというマイナス要素もあります。クライマーにとって重量が軽いということは何事にも代えがたいくらいに大切なことです。

 

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そこでシングルロープにおける欠点を解消する方法について考えてみたいと思います。

シングルロープにおける欠点は、ドラッグ現象による衝撃荷重の増大とロープの引きの重さ、そして懸垂下降の距離があります。
ドラッグ現象を緩和させるには屈折角度を減らし、且つ屈折によるロープの抵抗を減らせば、屈折抵抗は最小限に留めることができるでしょう。
そこで装備に支点延長用のスリングと、DMMリボルバーなどのプーリー付きカラビナを用意しておきます。

屈折箇所にセットすることでロープの屈折角度を減少させると共に、プーリー付きカラビナでロープの屈折抵抗を減らすことで、懸念されるドラッグ現象を大幅に減少させることが可能となります。

 


 

懸垂下降に関しては、上記の写真の様にロープをセットします。ラッペルリングにロープの長さと同長以上の長さの回収用コードを繋ぎ、ガースヒッチになるようにロープをセットします。ロープ1本で懸垂下降を行うことでハーフロープの時と同じ長さ下れることとなります。

この写真ではラッペルリングを使用していますが、カラビナを使ったり、ロープを直接通しても構いません。カラビナを使用する場合にはカラビナに曲げる力がかからない様に注意が必要です。またロープを直接通す場合には、ロープの摩耗が起こることも考慮しなくてはいけません。ラッペルリングの場合にはこれらのリスクを無くせますが、他の目的に使用しない道具を携行し無くてはならない欠点が生じます。

またここでは細いカーボンラインを使って回収用コードにしていますが、いくらカーボンに強い断裂強度があっても、岩角断裂のリスクは生じます。回収困難に至る可能性があるので、心配な方は5mmくらいの細引きを使うなどした方が良いでしょう。
言うまでもなく、ロープ2本使った場合より回収時に引っかかるリスクも増します。十分に理解した上で使用しましょう。

 

シングルロープシステムにすることでグリグリなどのブレーキアシスト機能付きデバイスを使用できるのも魅力に感じます。
やはり自動ロックしてくれるのは安心ですし、フォロービレイ時のロープの引きの滑らかさは疲労軽減に大きく貢献してくれています。また懸垂下降の際にバックアップシステムを設ける必要が無く、万が一の登り返しにおいても実にスムーズにシステム構築が行える利点があります。

ハーフロープシステムを使用した場合、仮に比較的軽い 42g/m のロープを60m用意したとすると、その重量は5040gとなります。一方でシングルロープの比較的軽い 51g/m のロープの場合、その重量は3060gと凡そ2kgもの軽量化が実現します。
プーリー付きカラビナやスリング、ラッペルリング、カーボンライン、グリグリへの切り替えなど重量増もありますが、それでも総重量1.5kg以上の軽量化に成功しています。この差は凄まじく大きいものがあります!

 

 

セルフレスキューに関してはシステムが複雑になりますが、これも適切なトレーニングを受け、しっかりと練習を繰り返しておくことで問題は解決します。

現在ではロープの製造技術が進歩し、シングルロープ、ハーフロープ、ツインロープの全規格をクリアしているものも数多くなってきました。シングルロープとして使用できる伸び率の低さながら、ツインロープとして使用できる衝撃荷重の小ささなので、ロープによる中間支点崩落のリスクも差も小さくなってきています。道具を工夫してシステムを考えることで、シングルロープのネガな部分を打ち消し、圧倒的な軽量化を実現することができるでしょう。

 

このシステムはハーフロープシステムに比べてリスクがあることも事実であり、十分な注意が必要です。システム内容を理解できる人のみが使用し、自己責任においてよく考えながら使用して下さい。ご参考にして頂ければ幸いです♪

 

 


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この講習は、セカンドクライマーのレスキュー技術と、リードクライマーのレスキュー技術の二部構成でお伝えします。